好きにならなければ良かったのに

 顔を真っ赤にした美幸が、逞しい幸司の体に見とれてしまっている。恥じらっては初心な顔を見せる美幸なのに、熱い瞳をして幸司の裸体を直視していることに、逆に幸司の方が恥ずかしさを覚えてしまいそうだった。

「美幸、もう寝ていたのか……。帰ってしまったのかと心配した」
「ご、ごめんなさい」
「湯が気持ち良かった。お前も入れよ」
「……う、うん」

 布団を躰にグルリと巻きつけた美幸は、その格好でどうやって洗面所まで行こうかと少し悩む。堂々と下着姿のままベッドを抜け出るのは恥ずかしい。そう思っていると、ベッドまでやって来た幸司によって布団は剥がされ下着姿を晒される。

「……っあ、その……」
「一週間の疲れを癒してこい。今週は何かと疲れただろう? 待ってるからゆっくりしてこいよ」

 剥がした布団をベッドの上に置いた幸司は、再び頭に掛けたバスタオルでゴシゴシと頭を拭き始めた。美幸は自分の下着姿より幸司の裸体の方が恥ずかしくて堪らない。俯いたままベッドから下りると洗面所へと急ぐ。
 幸司の横を通りすぎようとした時、美幸の腕を掴んだ幸司に引き留められる。

「え……?」

 美幸が驚いた顔をして見上げると、美幸よりも随分と背の高い幸司の視線が高みから落とされる。心臓がドクンと跳ねた美幸の顔は羞恥心で真っ赤に染まる。

「良い顔している」

 フッと笑った幸司の口からそんな意味不明な言葉が出る。美幸は何の事か理解出来ず、幸司の顔を見るのが精一杯だ。まるで爽やかな王子様の様な微笑みをする幸司に美幸の鼓動は早まる。

「気が変わった。俺も一緒に入る」
「え?!」
「驚くことはないだろう。俺達は夫婦なんだ」

 確かに幸司の言う通りではあるが。最後に二人一緒に風呂に入ったのは何時だったのかと、美幸は思わずそんな事を考える。すると背中を押された美幸は洗面所へと行くと、すぐさま背中のホックを幸司の手によって外される。
 パチンと外れる音が聞こえると、幸司の手慣れた様子に美幸は何となく胸に痛みを覚える。

「自分で脱ぐわ」
「俺の楽しみを取るな」

 下着を脱がすのが楽しみなのかと、経験が殆どない美幸は戸惑うことばかり。結婚前にラブホテルへ行くことも、セックスを経験することもなかった。そもそも結婚前はまだ高校生だった美幸には交際する相手さえいなかった。
 結婚して夫婦になったと言っても、恋人がいた幸司と甘い時間を過ごす機会はあまりなかった。こんな心臓に悪い経験などしたことがないのだ。



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