好きにならなければ良かったのに
「や……あ、その……」
「向き合った方がキスしやすくて良いだろう?」
幸司の太股の上へと座らせられた美幸は、しっかり幸司の体を跨ってしまっている。触れあう体がとても熱い。こんな淫らな格好で座るなんてと美幸の顔は茹蛸以上に赤く染まる。そして燃え上がりそうな程に下腹部から熱が湧きおこり、それは一気に全身へと拡がる。
「可愛い顔をするな。我慢が出来なくなるだろう?」
顔を真っ赤にした美幸の頬を両手で挟むと、クイッと自分の顔へと引き寄せ唇を重ねる。やっと重なった唇に幸司は貪るように吸い付く。その唇の熱さに更に美幸は熱に侵されそうになる。
---ラブホテルで甘い時間を過ごす幸司と美幸。
その一方では、居酒屋の奥まった狭い個室でテーブルを挟んで座る晴海と吉富。大人四人が向かいあって座れる程度の広さしかなく、余分なスペースは全くと言って良い程にない個室で、晴海と吉富は酒を酌み交わしている。
晴海はいつもの平静な表情をしているが、目の据わった様子にかなりお酒に酔っていると誰の目にも分かる。
「ねえ、晴海ちゃん。もうそれくらいでやめておこうよ」
「煩いわね。飲みたいから飲んでいるのよ、文句ある?」
完全に目が据わっている晴海を見て、この状況があの時と同じだと感じながら晴海の顔を眺めて言う。
「前にもね美幸ちゃんを誘ってさぁ、来たんだよね。あの時も美幸ちゃん酔っぱらったんだよね」
吉富の口から『美幸』という言葉を聞かされ、晴海は顔をかなりムッとさせて怒った顔をする。そしてプイッと顔をそむけるとテーブルに両腕を乗せて寝そべるように頭を腕に乗せる。
並んでいるグラスを眺めながら大きな溜息を吐いた晴海の目から一滴の涙が流れる。
「ねえ、私ってそんなに嫌な女なの?」
晴海の涙声にハッと気づいた吉富は、流れるその涙を見つめ目を細めてしまう。
「晴海ちゃんは最高に良い女だよ」
「嘘」
「嘘じゃない。俺は嘘は嫌いなんだ」
フッと笑う晴海は、空っぽのグラスの淵を指で撫でては摘まんで倒そうとする。倒れそうになるグラスを吉富が取り上げると、晴海から離れた所へグラスを置く。
「あぶないよ。割れて怪我したらどうするんだい?」
「良いのよ。私が怪我しても幸司は何とも思わないわよ」
悔しそうに顔を歪め唇を噛みしめる晴海を見て、大きな深呼吸をする吉富は胡坐を掻いていた脚を立て、すぐ後ろの壁へと体を持たれかけさせる。