好きにならなければ良かったのに
「営業部一課に配属されました大石美幸です、宜しくお願いします」
元気良く挨拶するのは営業部所内の新入社員紹介の場面でのこと。今年大学を卒業した新卒の新入社員らが先輩社員らに挨拶し洗礼を受けると言うものだ。
美幸が配属された部署は営業部一課で男性社員の多い課だ。
「今、挨拶したあの子って結構可愛い顔をしてますね」
「何だよ抜けがけすんなよ、光彦」
「ダメですよ、吉富さん。先輩の餌食にしちゃったら彼女会社辞めてしまいますよ」
「失礼な奴だな、俺はちょっと可愛がってやろうかと思っただけだよ」
新入社員の挨拶が続く中、営業部一課の男性社員の二人が色めき立った瞳で、挨拶をしている美幸を眺めている。その隣には眉間にシワを寄せた幸司が立っていた。
---あれから四年。
幸せな結婚式を挙げた美幸が幸司と新婚旅行から帰って来たその直後だった。天国から地獄へと突き落とされた美幸。幸司とのスピード結婚の謎を全て知ることになった。
『そこで何をしている?』
幸司の冷たい視線とその言葉を浴びせられた美幸はまだ高校卒業したばかりの十八歳だ。そんな美幸は幸司のあまりにもつれない態度に耐えられなく目からは涙が溢れ流れていた。そんな美幸を見てもその時の幸司は美幸を庇うことはせず事実だけを知らせた。
『今の電話聞いてたんだな。まあ、いいさ。お前は親父の命令で結婚した。俺が親父の会社を継ぐには必要だったからプロポーズした。だが、俺には恋人がいるんだ。その女との関係を終わらせる気はない』
新婚の妻に冷たすぎる言葉だった。あまりにも非道な言葉に美幸はパニックを起こしその夜は倒れてしまった。
倒れた新婚の妻に寄りそうはずの夫はいなく、その夜は一人寂しく夫婦の寝室のベッドに一人涙を流しながら眠った。
その夜から既に四年の年月が過ぎていた。