好きにならなければ良かったのに
会計を済ませた二人は、店を出るとそのまま近くのラブホテルへと直行した。
晴海は「素敵な所があるの」と、如何にも一度は行った経験のあるセリフを言う。それは、多分『幸司と二人で行った』と意味するのだと、吉富には分かっている。
嫉妬したい吉富ではあるが、二人は元々恋人同士だったのだ。その二人がラブホテルへ行くことも二人の関係がそんな親密な間でも当然の結果だと受け止めている。気分の良いものではないがそれは仕方のない事だと分かっているから。
「本当に良いんだね?」
「煩いわね。あんたにつき合うって言ってるんだから、良いのよ」
半ば自棄を起こしている様にも感じが、吉富はだからとこのチャンスを逃すつもりはない。そして、もしかしたら二人肌を重ねることで晴海の気持ちが変わってくれるのではないかと、そんな儚い夢を見るような望みを持っていた。
ラブホテルの部屋へと入って行くと、晴海は臆することなく上着を脱いでハンガーへと掛ける。まるで知った知人の部屋にでも入ったかの様に振る舞う晴海に、吉富は嫉妬で頭に血が上りそうになる。
「この部屋来たことあるんだね?」
「そうね。随分昔の話だけど。幸司と来たわ」
「……晴海ちゃんも残酷だよね」
「私は事実しか言わないわ。あの時の幸司はとても素敵だったわ。あなたも十分私を楽しませてくれるんでしょう?」
「ああ、課長以上に晴海ちゃんを愛してやるよ」
晴海の腕を掴んだ吉富は、勢いに任せベッドへと晴海を押し倒す。晴海の足がベッド端から垂れ下がるとその脚を手で押し上げる。
「吉富……さ、ん」
「隼人って言ってよ」
「はやと?」
「そう、ベッドの中ではそう呼んで」
フッと笑う晴海は吉富のシャツのボタンを外そうと襟へ手を伸ばす。
吉富は酒でほんのり頬が赤く染まって来た晴海の唇にチュッと軽くキスをする。けれど、それはほんの挨拶代わり。晴海の瞳を見つめると「好きだよ」と甘い言葉をかけてもっと深いキスをする。
ボタンを外そうとした晴海の手は、襟からスルリと抜けて首へと廻す。吉富の首にしっかり抱きついて、甘い唇を味わう様に晴海もキスに応える。
「ん……キス、上手いのね」
「晴海が相手だからだよ」
晴海の胸の奥深くで何かを感じた。最近、幸司とは碌にキスもしていない。美幸が入社して以来、幸司は妻に遠慮してか晴海には以前ほど甘い態度をしてくれなくなった。
吉富の様な情熱的なキスを幸司はしてくれたのだろうかと、そんな疑問が頭を過ぎる。
自ら答えを出すと、晴海の心の中ではその答えは「NO」だ。