好きにならなければ良かったのに

 思ったより温かく感じる吉富の肌に、晴海は酒の勢いも手伝って、この夜、愛しい男以外のしかも同僚の胸に身を任せてしまった。
 自棄を起こし行為へ走った様に感じる晴海だが、それも最初だけで、吉富のその熱い唇や執拗な指に何度も楽園を彷徨う晴海は官能的な夜を過ごすことになる。

 ラブホテルで過ごす美幸と幸司。そして晴海と吉富。二組のカップルがその夜それぞれ情熱的な夜を過ごす。

 そして翌朝――

 遅くに目を覚ました美幸は、しっかり幸司の腕に抱きしめられながらの朝の目覚めだ。

「おはよう、幸司さん」

 頬をほんのり赤く染め乍ら幸せに満ちた顔をして幸司を見上げる美幸の愛らしい姿に、「おはよう」と挨拶を返しながらギュウっと美幸を抱きしめる。

「まだ眠いのか? それともし足りない?」

 顔を覗きこむ幸司の意地悪な顔に、美幸は口を尖らせて幸司の胸に顔を埋める。

「顔を隠したらキス出来ないだろ? いいのか?」
「意地悪だわ」

 フッと笑うと美幸の後頭部へ腕を回し、俯く美幸の顔を上へと上げさせる。

「幸司さんがこんなに意地悪なんて知らなかったわ」
「じゃあ、これで十分に分かっただろ?」

 まるで新婚旅行の再来かと思える程の熱い時間を過ごす二人。美幸はこんなに幸せな時間を過ごせるとは思わなく胸が熱くて悦びに震えそうになる。

「名残惜しいが、そろそろ帰る準備をしよう」

 幸司の言う通りで美幸は今の時間をもっと過ごしたい気分だった。もし、このままこの部屋を出たら、また以前の幸司に戻りそうで怖かった。
 だから、不安そうな表情をして幸司を見つめてしまう。

「美幸、どうした?」
「家に帰っても、こんな風に優しい幸司さんでいてくれる?」

 美幸の言いたいことは十分に伝わっていた。美幸の辛そうなその表情から自分がどれほど美幸に辛い思いをさせてきたのかと、胸が締め付けられそうになるとギュっと美幸を抱きしめてやる。

「ああ、美幸を大事にするって決めたんだ。だから家に帰っても美幸を抱きたい」

 そう言う意味ではないのにと思いながらも、幸司の嬉しい言葉に美幸は頷く。それも、とても幸せそうに微笑みながら。そんな美幸の笑顔を見て幸司は胸が熱くなる。

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