好きにならなければ良かったのに

 幸司を無視しようとする晴海とは逆に、美幸は急いで椅子から立ち上がり課長デスクの前へと急ぐ。他の社員らは美幸に合わせた様にデスクから立ち上がりそれぞれゆっくりと課長デスの所へ集まってくる。

「日下、何している?」

 一人だけデスクから動かない晴海に幸司の冷ややかな言葉が飛ぶ。課長デスクの前に集まった皆からの視線を集めた晴海は、仕方なく椅子から立ち上がるが、足がその場から動こうとしない。
 幸司は溜息を吐くと周りの社員らを見渡し朝礼を始めることにする。

「早速だが、新人の配置と君等の仕事を検討して今年からはチームとして組んで仕事をして貰うおうと考えた。そこで、私が決めたチームで今後仕事をして貰う。一旦チームを組んだからにはその相手とは協力しあって仕事に取り組んで欲しい」

 単なる新人の配置だけの発表かと思っていた社員ら一同皆顔を見合わせて頭を傾げる。これまで必要に応じて男性社員の補助に女性社員を付けていた。けれどチームと言うことは今後はその組んだ相手と一緒に仕事をすることになる。

「課長、チームとは全員が誰かと組むと言うことですか?」

 真っ先に苦情を申し立てたそうにしているのは香川だ。これまで一人で仕事を熟してきた香川に取って、相棒などと言う相手は必要ないと思っている。ただ、その相棒が美幸なら話は別だが、他の社員なら受け入れられないと言いたげな顔をしている。

「まあ、最後まで話を聞け」
「ですが……」

 やはり香川は納得出来ない顔をする。どう考えても自分の希望通りに部長の娘である美幸を香川とチームを組ませるとは思えないからだ。

「今から発表する」

 幸司のその言葉にその場は静まり返る。

「香川は日下と佐々木との三人のチームだ。それから吉富は相田、戸田は梅田と組んで貰う」

 晴海は顔を上げると幸司の顔を見つめる。それも、かなり悔しそうな表情をしながら。
 社員が並ぶ間から晴海のその表情を見た幸司は更に言葉を続ける。

「そして、大石には私の下で仕事をして貰う。これまでの業務については日下から大石へ引き継ぐように」

 幸司の残酷な言葉に美幸も晴海もハッと顔を上げてはお互いに顔を見合わせる。
 そして、吉富も香川も目を丸くしてこの状況に驚きを隠せない。

「待って下さい! 得意先に詳しい私を外して新人の彼女を付けるなんてバカげているわ! こんなの絶対に間違ってるわよ!」

 思わず晴海は自分のデスクから大声で怒鳴る。

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