好きにならなければ良かったのに
美幸に離婚を告げられたその夜。自宅へ帰るのが怖かった幸司は、家へ帰ることなく会社近くのビジネスホテルへと泊まった。
自宅で帰りを待つ使用人のことを考え、一応連絡だけは入れたが、詳しいことは話さずに、ただ、仕事の都合で家を空けるとだけそう伝えた。
「疲れた……」
高層ビルの建ち並ぶ中でも見劣りのない、聳え立つビジネスホテルの上層階の部屋から外の景色を眺めなている。コンクリートの塊がやけに刺々しく目に入る幸司は、そのビジネス街の風景に心を痛める。
「冷たいビルの景色だな」
暫く外を眺めていたが濃紺の厚地カーテンを閉め、外の世界をシャットアウトする。
カーテンを閉めた幸司は、唇を噛みしめベッドへと腰を下ろす。やはり、何度考えても納得できないのだ。昨夜抱き合った時の美幸の幸せそうな笑顔を思い浮かべると、今朝の美幸のセリフに納得がいかない。
どうしても、幸司には納得出来ないのだ。愛し合ったはずなのにと、思いが通じ合った筈なのにと……。
「それなのに、何故だ。美幸……」
ベッドに仰向けに寝そべる幸司の瞳は少し潤んでいる。これ程美幸に去られることがショックだとは自分でも思わなかった。それだけに悲しさがこみ上げてくる。
―― 一方、食事を済ませた晴海と吉富は、先日泊まったラブホテルへとやって来ていた。
「晴海ちゃん、余程俺の体が気に入ったのかな?」
「バカ言わないでよ。気分転換したいだけよ。それに、ただの退屈しのぎよ」
「ふーん……、でも、その相手に俺を選んでくれたのは嬉しいな」
ホテルの部屋へ入るなり、いきなり服を脱ぎ始める吉富。晴海もしわにならないようにと脱ぎ始める。
「ねえ、俺にボタン外させてよ」
「ダメよ。自分でやるわ」
「男のロマンを奪うなよ」
「は?」とかなり怪訝そうな顔をする晴海だが、つぶらな瞳をする吉富に観念したのか、リクエストに応えようとボタンから指を離す。そして胸を吉富の背中に押し当てると背後からギュっと抱きしめる。
「随分積極的なんだね。そんなにやりたかった?」
「暇つぶしよ」
晴海は抱きしめた吉富の背中に幸司とは違うフェロモンを感じる。そして、それが晴海の興奮を更に呼び起こす。
「今日は私が上になるわ」
「頼もしいね」
嬉しそうに微笑む吉富は、抱きしめられる晴海の手を掴むと自分の顔へと運ぶ。そして、その手の平にチュッと口付けすると、振り返って晴海の体をすっぽり抱きしめ愛らしい唇に吸い付くようなキスをする。