好きにならなければ良かったのに
――午前零時を過ぎた寝室。
ダウンライトのみを点けてベッドサイドに腰かける美幸は、今日こそは帰りが遅い幸司を待つことにした。
どう考えても仲が良いとは思えない青葉と吉富がやって来たのだ。しかも、この謎めいた封筒を持って。これには何か意味があると感じた美幸は、今夜こそ心の中のモヤモヤをスッキリさせたいとそう感じていた。
「車だわ」
車が屋敷内へ入って来ると玄関前に停まる。幸司の車と分かると美幸はソワソワしだす。玄関のドアが開き鈍い音を立てて閉まる。そして、家の中に入った幸司の足音が階段の方から響いて来る。夜中のこの時間帯、静まり返った屋敷内だからこそよく伝わる。
「ああ、どうしよう。あ、これ……」
封筒を手に持ったままだと気付いた美幸は、写真をどこかへ隠さなければとベッドから下りてオロオロする。階段をかなり近くまで登って来た幸司の足音の速さに封筒を隠す暇がなくなり枕の下へと腕を入れ込み枕の奥深くへと封筒を隠す。
すると、ガチャと寝室のドアが開き、枕の下から慌てて腕を取りだした美幸は寝室へと入って来た幸司と目が合う。
「こ、こんな時間まで何をしている?」
「あ、その……」
寝室へ入って来ると幸司は少しムッとした顔をして美幸から目を逸らす。何故、以前の様な冷たい幸司に変わってしまったのかと、美幸はベッドに横になると布団を頭から被る。
幸司の冷たい目にすっかり写真の事を忘れてしまった美幸は、枕を握り締めると胸へと抱き寄せる。
「お前は妊婦なんだから、夜は早く寝ていなきゃダメだろ」
冷たい言葉に聞こえる美幸はまた以前の様にビクリとしながら布団を頭から被っている。けれど、これだと今までと全く同じになってしまうと、布団を押し退けムクッと起き上がりベッドの上に座る。
そして、封筒を手に取ると幸司の方へと突き出す。
「な、何だよ」
美幸が怒った様な顔をして封筒を突き出すその姿に大きな溜息を吐いてベッドへと行く。そして、ベッドに腰かけると美幸の手から封筒を受け取り中から写真を取りだす。
「……」
自分が写る写真を見て絶句した幸司は写真を思わず破いてしまう。
何故幸司がここまで怒るのか意味が分からない美幸は幸司から封筒を取り上げようとする。
「こんなものいったいどうしたんだ?」
「青葉さんから貰ったの」
顔を手で覆った幸司は大きな溜息を吐いては呟く。
「俺が何の為にジムへ行って時間潰しをしていたと思うんだよ」
そんな事を言われても何も知らせて貰えない美幸は不満ばかりがつもり、幸司への不信感まで募っていく。