好きにならなければ良かったのに
バスタオルを腰に巻いた状態で現れた幸司に、美幸は頬を赤く染めて胸をドキドキさせている。夫婦になって何年も経つのに、おまけに二人の間には赤ちゃんが生まれると言うのに。それでも初心な表情を見せる美幸を見て幸司はクスッと笑ってはカウチソファの所へと行く。
「そんなに知りたい?」
「え、と。うん」
幸司のことは何でも知りたいと思う美幸は大きく頷く。すると、美幸の隣に腰を下ろした幸司は、腕を美幸の背中に周し肩を抱きしめる。
「お前の所為だよ」
「え? 意味が分からない」
ますます幸司が何を考えているのか意味が分からない美幸は頬を膨らませると、その頬を幸司が人差し指で突く。
「こんな顔もするんだな。可愛いな美幸は……」
優しい眼差しに包まれる様に見つめられると、体の奥から燃えるような熱い熱がこみ上げてきて顔まで真っ赤にになって今にも燃え上がりそうになる。
肩を抱き寄せていた手を美幸の頭へと動かすと、グイッと引き寄せ自分の頭とコツンと当てる。
「美幸を大事にしたくて帰って来なかった。ごめんな」
更にますます意味が分からない美幸は目が点になる。大事にしたいならもっと一緒に居て欲しいと思っている美幸には幸司の行動は理解出来ない。何故、一緒に居たらいけないのか、納得はできなかった。
「だったら一緒に居て。私を大事にしたいと思うなら、いつも私の傍に居て欲しいのに」
「ごめん、無理なんだ……、その……」
幸司は美幸を大事にするとは言っても、やはり恋人だった晴海を忘れられないのかと晴海の顔が脳裏を過ぎる。
「やっぱり、晴海さんが恋しいのね」
美幸の口から意外な言葉を聞かされ驚いた幸司は、美幸の体から離れるとカウチソファに片足を乗せ、体を美幸の方へと動かす。両手で美幸の肩を掴み、悲しそうに瞳を潤ませる美幸の顔を見つめると、顔を寄せてキスをする。
「んっ……や……」
晴海への想いを断ち切れていないのに何故こんなキスが出来るのかと、怒りで頭の中がいっぱいになる美幸は涙が流れそうになる。必死に抵抗しようとするが幸司の唇は離れない。
吸い付くようなキスをする幸司の舌が口内へと入り込むと、美幸の脳天まで電気が流れるようなビリッとした痺れが全身を襲う。
「離して」
やっと離れた唇に、美幸が抵抗を見せようとすると、幸司はそんな美幸を包み込む様に抱きしめる。