好きにならなければ良かったのに
あからさまに媚を売る女に幸司が好意を寄せていると思いたくないのに、美幸と相田の目の前を、幸司と晴海が乗る車が通り抜けていく。
「今の課長と日下さんだわ、相変わらずお盛んだこと」
二人の仲は会社では公認なのかと疑いたくなるし、こんなことが許されるのだろうかと、美幸は怒りより自分がとても惨めな気分になる。
なのに、もっと二人の情報を知りたいと、
「あの、食事でもどうですか? 会社のことも色々と知りたいし」
よせば良いのに、どうしても幸司と晴海の関係がどこまでなのか事実を知りたくて相田を食事に誘ってみる。
すると、相田は大きく頷いて喜んで付き合ってくれた。
二人が向かったのは会社近くの居酒屋だ。相田はこの店は女だけでも入りやすい雰囲気の店だと教えてくれた。店内へ入ると確かにそこには女性客が目立っていて、カウンター席は男性客より女性客の方が多く占めている。
店の奥には畳スペースがありそこへ店員に案内されて行くと、そこには、同じ部署の男性社員らの姿があった。
「あれ? みっちゃんと美幸ちゃんじゃないか? 二人だけの歓迎会なのかな?」
「そう言うそちらも三人だけの歓迎会ですか?」
「みっちゃん」に「美幸ちゃん」と馴れ馴れしい喋りをするのは、新人挨拶の時にもふざけて幸司に嫌味を言われていた吉富隼人だ。
そして、吉富と一緒にテーブルを囲んでいたのは吉富の後輩の戸田光彦と、美幸と同じ新人の佐々木満だ。
「ねえ、相田さんも大石さんもこっちおいでよ」
吉富と同様に人懐っこい表情を見せる戸田は、テーブルに座るスペースを作ろうと少し腰を上げで場所を詰める。それに合わせるように新人の佐々木も少しだけ座る場所を移動した。
「ほら、みっちゃんが座らなきゃ美幸ちゃんは座れないよ、ここへ、どうぞ」
一人でも多くの幸司の部下から情報を得るのには絶好の機会なのかも知れない。しかし、そう思ったものの、普通は大人の男性が上司の悪口を同じ社員の女性に話すのだろうかと疑問に思うと、今回はあまり期待できそうにないと諦めかけた。