好きにならなければ良かったのに
ところが、いざ、『歓迎会』が始まると吉富も戸田も実に相田以上に言いたい放題で、人が訊かない事まで喋りまくる始末。誰もそこまでの情報は欲しくないと思いながらも聞いていた。
「日下さんって、そんなに仕事ができるの?って言いたい時もあるのよね」
自分は日頃ミスが多いと言うも、晴海が課長の事務補助をするほど有能なのかと疑問を持っているようだ。そんな文句が一度ならず二度三度と出てくる。
すると、それを聞いた戸田も同じ様なセリフを返す。
「ああ、オレも思うときあるなぁ。この前なんて相田さんがまとめ上げた資料の方が絶対に顧客に受けると思ったのに、パッとしない日下さんのを採用したろう? あれには、ちょっと課長にも幻滅したなぁ。吉富さんもそう思いませんでした?」
「課長は日下さんを依怙贔屓してるんですか?」
戸田が不満そうに言うと新人の佐々木は何も知らずにそう聞き返す。すると、吉富の顔を見た戸田は気まずそうな顔をしながら肩をすくめた。
「晴海ちゃんはね、あ、日下の事だけどね、あの子は特別なんだよ。課長にとっては」
戸田に代わって説明を始める吉富の表情は冴えない。飲んでいたビールのジョッキをテーブルに置くと、さっきまでのふざけた顔をしておらず、どこか遠くを見るような目で話をする。
「まあ、いずれ知れることだろうから新人の二人にも話しておいた方が良いだろうなぁ」
「日下さんって課長の親戚の子とかそんな感じなんですか?」
佐々木がそんなセリフを言うと吉富と戸田が交互に相田と顔を見合わせる。そして、妙な顔付きをすると戸田と相田は黙りこむ。
そんな三人の異様な雰囲気にいよいよ核心に触れるのかと美幸は覚悟を決めて吉富の話を聞こうと拳を握る。
「課長はあの会社の社長の息子でさ」
「ええっ?! 本当なんですか?」
驚いた佐々木が目を丸くしている。社長の息子が課長の職にいるのが信じられないようで、手に持っていたコップを落としそうになっていた。
「ああ、本当だ。いわゆる御曹司ってヤツだよ。で、あの晴海ちゃんはその御曹司のコレって訳だ」
そう言いながら吉富は小指を立てる。美幸はやはり会社で公認の二人なのかと、昼間の仕事ぶりを見ていてもそう感じていた。