好きにならなければ良かったのに
結局、その夜は、相田と二人だけで飲む予定が外れ、吉富や戸田、佐々木らと合流し一緒に歓迎会ならぬ課長幸司の暴露会を行った様になってしまった。
そしてそのお酒の席で、うすうす気付いていたものの社内でも公認の二人の関係を知り再び傷つくことになった。
これまで四年もの間、幸司がいつかは恋人の晴海と別れてくれるのではないかと期待していたものの、もう無理ではないのかと思い知った瞬間かも知れない。
歓迎会がお開きになると一人駅へと向かい自宅目指し帰って行く。外はすっかり夜の景色から深夜近くの景色へと変わりつつある。
いつもなら賑わう駅前通りでも人の行き交う姿は少なくなり酔っぱらいのサラリーマンの姿や、まだ仕事途中というようなタブレットで作業している姿もあれば、手帳を見ながらスマホで会話をしているサラリーマンの姿もある。
電車に乗って自宅近所の駅で降りると、そこからは徒歩で帰ることになるが、駅から自宅までの距離は女の足で歩くには少し時間がかかる。
とは言っても、そこ十分か十五分程度だろうが、夜道の女の一人歩きは危険だと感じてタクシーを使って帰ることに。
駅前に並ぶタクシーに乗り自宅まで帰宅すると、玄関は既に真っ暗で電気一つ点いている様子はない。勿論、鍵もかけられてしまっている。
バッグから鍵を取り出し玄関の鍵を開けると静かに家の中へと入って行く。
森閑とする家の中は誰一人として出迎えに出て来るものはいない。それもそうだろう。玄関に置かれている美幸の等身大はあろうかと言う陶器の置時計で時間を確認すると既に夜11時近くになっていた。
使用人達は勤務時間を過ぎて自室へ戻っているはずで、今は誰もいないのは当然のことだと分かると、電気は点けないまま自分の寝室がある三階までゆっくり上がって行く。
毎日の事とは言え、三階まで階段を上るのは体力が必要で、特に今日の様にお酒を少し飲んだ体では寝室までの道のりが遠く感じる。
二階まで上がって行くとかなり息が乱れ少し休憩しようと階段に座りこんだ。大きく溜息を吐くともうこのまま眠ってしまいたいと階段に伏せてしまった。