好きにならなければ良かったのに
そんな経緯があるのを知っているだけに幸司としては美幸は自分にとっても会社にとっても大事な存在であり無下に出来ない相手でもある。
しかも、それだけの実力者で切れ者の営業部長の一人娘だ。父親に似て一度言いだしたら人の意見など聞きそうに感じない。父親はそんなワンマン的なところがある。
しかし、人を導くワンマンなだけに幸司は洋一には頭が上がらない部分がある。
「勝手にしろ」
寝室から出て行った幸司は階段を下りて行く。そして、どこへ行くのかと思っていると玄関のドアが開きそのま車でどこかへ行ってしまった。
「また、あの女の所へ行くの?」
何かある度にこれが続くのかと思うと美幸の胸が締め付けられるも、これ以上嘆き続けても意味がないとも感じている。
「明日の準備をしなくちゃ。それに、明日は帰りにお義母様に呼ばれているからその準備もしなくちゃいけないのに」
そう思ってベッドから立ち上がるも足が縺れてしまいその場でひっくり返ってしまう。ベッドの上に倒れた美幸はそのまま意識がなくなるように眠った。
今頃になって慣れないお酒にかなり酔いが回ったようだ。階段を上る途中で既に横になりたくて座り込んだのを、無理して三階まで上がってきたのだから酔いも回るだろう。
おまけに幸司の罵声を浴びては呼吸すら儘ならないのだから。息も絶え絶えになって倒れるのも無理はない。
幸司のベッドに倒れたまま寝込んだ美幸は、その後目を覚ますことなく朝まで寝てしまった。
ーーー翌朝、
眩しい朝日を全身に受けながら目を覚ました美幸は、前日のアルコールが体から抜けきれず二日酔いとなってしまった。
「頭が痛い」
ズキズキする頭を抱えながら起き上がると、回りの風景がいつもと違うと気付く。よくよく考えると、昨夜、帰宅直後に幸司に怒鳴られ、幸司が家を出た後に酔いが回ってそのまま倒れこむようにここで寝てしまったのだと思い出した。
しかし、あの時は帰宅したままの格好で眠ったと思っていたのに、起こした体を見ると下着姿になっている。
「いつの間に着替えたのかしら?」
「服がシワになると困るだろう? 俺が脱がした」
突然の幸司の声に驚いて布団をガバッと胸まで隠して声が聞こえた方へと視線を向けると・・・
美幸の隣に、朝日を眩しそうに目を細めて幸司が寝ていた。