好きにならなければ良かったのに
「まあ、俺はいつもこんな感じだからね、そう思われても仕方ないけど。これも自業自得って訳だよな」
「そうじゃないんですか?」
「君も平気で人の傷つくこと言うね」
顔を上げた吉富はテーブルに両手で顎肘をつく。真っ直ぐな視線で美幸の顔を覗きフッと笑う。
吉富を危ない人かと思っていた美幸だが、吉富の優しそうな瞳に何となく信用して良い人なのだろうかと思いながら顔を見ていると。
「俺のことは少しは信用出来そう?」
「分かりませんけど」
「これだけは言っておくよ。俺は正真正銘心からの恋人でなければ手を出さないしエロイこともしない」
吉富のクスッと笑うその微笑みには嘘はないのだと何故かそう感じてしまった。何故だか分からないがまだ昨日知り合った同じ会社の人と言うだけなのに、吉富の笑顔がそう思わせる。
「吉富さんは恋人はいないんですか?」
「いたら君を誘うと思う?」
確かに恋人が居たら会社の女子社員を誘わないだろう。万が一、二人だけで飲みに行ったと分かれば恋人と喧嘩になりかねないのだから。そう思うと美幸は頭を上下に振る。
「昨日も自己紹介で言わなかったっけ? 只今恋人募集中で彼女だけじゃなくて嫁さんも探し中なのよ」
ワザと砕けた様な物言いをして再びテーブルにべったりと伏せてしまう。まるで子どもの様な仕草をする吉富。社内での仕事振りからは想像が出来ない。美幸が出勤し退社するまでの間に吉富の姿を何度となく見かけるが、その姿はビシッとスーツを着たビジネスマン風でとてもこんな子ども染みた人ではない。
社内の休憩時間などに悪ふざけの様な会話は見かけるが、それでも、こんな駄々っ子の様な態度は取らない。だから美幸は目を丸くしながら吉富の動作をつい見てしまう。
「そんなに見つめられると恥ずかしいな。一応これでも年頃の男の子だからね」
自分のことを『男の子』と言うにはあまりにも年齢が上の様に思える。すると美幸は頬が少し強張ってしまう。しかし、そんな美幸の表情を見ても吉富はクスッと笑うだけで何も言わないし訊こうともしない。
「さて、たまにはのんびり飲もうよ。ね、美幸ちゃん」
「……はい」
つい、吉富のあどけない表情に負けてしまった美幸は一緒に飲むことに。軽めのアルコール度の低いものから注文し二人で乾杯することになった。