好きにならなければ良かったのに
 そして、翌日二人で出かけたハネムーン。行き先は幸司が一度行ってみたかったという国内旅行。
 それが不満だったわけではなかったが本当は美幸には海外へ行きたいという希望があった。けれど、海外は危険だからと幸司の希望する国内へ行くことに。それも、辺鄙なところだった。

 そこは観光名所ではなくひっそりとした場所だった。だから勿論、観光する所はなく遊ぶ所もない。しかし、幸司が選んで行った先は、山の景色は素晴らしく空気が澄んでいて水も美味しい名水百選に選ばれるような場所で、如何にも金持ちの隠れ宿の様な所へやって来た。

「美幸と二人だけになりたかったからだよ」

 この場所を選んだ理由にそんなセリフを言われて美幸は舞い上がる一方だ。

 新婚旅行へやって来た二人は昼夜問わず殆どをベッドで過ごしている。幸司は甘い言葉を囁き、美幸をすっかりその気にさせては優しく抱きしめて情熱的なキスをする。そんな時間が美幸には幸せな時間だと信じて疑わなかった。

 甘い二人だけの世界がこれ程に幸せな時を刻むのだと知った美幸は、こんな時間が一生続けばいいのにとさえ思えた。旅行から帰れば通常の生活へ戻ってしまう。そうすれば、夫である幸司は会社へと出かけ、まだ学生の美幸は大学へ通うことになり、離れる時間ばかりが多くなる。

 少しも離れたくない美幸にとって、この旅行から戻れば好きな人と引き裂かれる様でとても寂しく感じた。

「まだ帰りたくない」

 そんな甘えたことを言う美幸をしっかり抱きしめる幸司。更にもっと布団の中へと美幸を引きずり込んでーーー

「帰れば二人だけの新居だ、こんな風にずっと甘えられるだろう?」
「うん」

 媚薬の様に甘く囁かれる幸司の言葉に美幸は抗える筈もなかった。

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