嘘ツキ彼氏
--ブーッ…
一時間ほど経っただろうか。携帯がメッセージを着信する。
『終わったよ。すぐ帰るね』
そう届いた画面を握りしめ、安堵の息とともに涙が流れた。嬉しいのか怖いのか、優越感か罪悪感か、それすら分からずにただひたすら友希が帰ってくるのを待ち続けていた。宣言通り10分ほどで帰ってきた音がした。いてもたってもいられずに玄関から飛び出す。

「友希…!」
「ただいま、美羽」

わけもわからず泣きじゃくってるあたしを優しく撫で、一度部屋まで戻った。

「やっと少し落ち着いた?」

コクリと頷くと笑いながらもう一度強く抱きしめた。そのままスッとあたしの顔の前に目線を合わせてかがむ。

「美羽」

目を合わせるとじっと目をそらさずに、恥ずかしげもなく言葉を紡ぐ。

「改めて、俺と付き合ってくれますか」

やっと収まっていた涙がまた止まらなくなった。そんなの、『はい』以外に何が言えるというのだろう。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をティッシュで拭われる。

「ぶっさいくな顔」

この笑顔が悪い。

「でも、すっげぇ可愛い」

この笑った顔が可愛くて無邪気で頭から離れない。この笑顔のせいだ。

「すき」
「うん」
「だいすき」
「愛してるよ、美羽」

そんな短いやりとりのあと、浅く触れるだけのキスをした。甘く痺れる、という表現を身をもって実感した。

「なぁ、美羽。いつから俺のこと好きだったの?」
「…教えない」

ほんとは一年半も前から好きだった。最初は小動物みたいで可愛くて、案外面倒見がいいんだなって見てた。でもそれがあっという間に好きに変わって、あっという間にほかの人に取られていた。

「俺は、あいつと付き合うよりも前からほんとはお前が好きだった」
「は…?」

突拍子もない発言につい、ドスの効いた声になった。そんなあたしに自虐的な微笑みを浮かべた友希。その微笑みは嫌いだ。

「お前が好きだったんだよ、あの時。でもお前好きな人いただろ?んで、あいつに告られて断れなくて付き合ってきたってわけ」

『最低だろ?』と言わんばかりの卑屈な顔。まるで責められるために言ってるみたい。

「奪ってくれてよかったのに」

今日はどうにも涙腺が緩いらしい。どうしようもないことだけど、もしそうしていれば初めからあたしだけを見てくれていたはずなのにと思わずにいられなかった。

「…ヘタレで悪かったな」
「ほんとだよ。チキン」
「うっせ」

きっと最低はあたしも同じだ。彼女がいることを知っていて告白したのだから。寝とったも同然だろう。それでもよかった。地に落ちても、蔑まれても、それでも欲しかった。
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