【短編】あわよくば、君と。
____とか言ってられたのも最初だけで、今じゃこの男に惚れてるんだけどね。
隣の席のこいつに、気付かれないようにはあーとため息をつく。
さりげなーく優しかったり、憎まれ口を叩くくせにいきなりドキッとさせるようなこと言うんだから困るんだ、こいつは。
人生って何が起こるかわからないよね、ほんと。
それにしてもよりにもよって最後がこの授業だなんてついてない。
この先生の授業で喋ったら罰として先生の机掃除させられるんだ。
だから喋るわけにもいかない。
そんなの寝るに決まってんじゃんと思うけど、寝たら寝たで朝の挨拶運動を行うっていう罰則があるもんだから寝るわけにもいかない。
これじゃ、話したいことも話せなくなる。
そんな最悪の授業で私と岩野が思いついたのが紙の切れ端を交換する、筆談方式での会話。
後ろの席ってこともあって未だにばれたことはない。
前例がないからこれがばれたらどうなるかは想像しないことが暗黙の了解。
『今日、席替えだよ』
だから今日もいつものようにノートの切れ端を使ってメモを渡す。
と、いきなりで驚いたようにビクリと肩を揺らす。
こいつ、今確実に寝そうになってたな。
そう思うとつい、くすっと笑ってしまう。
普段の仏頂面も寝てるときは案外幼いんだよね。