幼馴染はどこまでも俺様過保護
井上様と言ったら会社(うち)の大お得意様。ご主人は商社を営んでおられて、奥様には毎年、多額なお買い物をして頂いている。その金額は会社(うち)の売上の大半を締めている。そんな方のお宅にお邪魔してお相手するなんて… そんなの私に無理だって!
「実は井上様の娘さんが来春成人式を迎えるんだ。それでうちからも何かお祝いをと申し出たら、成人式に着る着物用に、今話題のアクセサリー作家miu-la-umiって人の髪飾りが欲しいらしいんだ」
欲しいらしいんだ、って…
「それで澪にmiu-la-umiって人を紹介して欲しいって、頼んで居るんだけど、あいつ無理だって言いやがるんだ!」
それは無理だよ!私が口止めしてるもん…
「蒼海からも澪を説得してくれ!それと井上様のお宅で着物の写真を撮らせて貰って来てくれ。着物の色やデザインが分からないと、miu-la-umiさんに髪飾りを頼むにも頼めないだろ?イメージもわかないだろうしな?」
確かに…
「いや、無理だって!作れない!」
「はぁ!?」
「あっ違う!澪ちゃんが紹介してくれなかったら作れないじゃんね?…」
「蒼海が説得してダメなら、その時は…とにかくお前は井上様のお宅に行って、着物の写真を撮ってくれば良いんだ!」
隼翔は話はこれで終わりと言って仕事を始めた。
私は副社長室を出ると自分の席に戻り、デスクで頭を抱えた。
嘘でしょう…どうしたら良いの…
井上様は大事なお得意様。隼翔が何とかしたいと思うのはわかる。でも…
隼翔から話を聞いてから、どうしたものかと考えても、良い考えが思いつかず、溜息ばかり出て仕事が手に付かない。
「あーどうしたら良いのよ!?」
「どうしたんですか?」
今日もお昼を食べに上がって来ていた林さんに声を掛けられた。
「あっごめん…何でも無いから気にしないで?」