幼馴染はどこまでも俺様過保護
井上様のお宅へ向かおうと社を出てタクシーに乗り込もうとした時、学生服を着た男の子が立っていた。
「……毎月毎月、来なくても忘れてないわよ!!」
「ごめん…」
「………」
「姉さんに頼める筋合いじゃないのは分かってる…」
それが分かってるならなぜ来るの!?って言ってもあんたもあの女に言われて来てるんだろうけど?
半年前、あの女が会社に訪ねて来た。
「久し振りね?元気してた?」
「なんの用ですか?」
「そんな怖い顔しないでよ?久しぶりの親子の再会なんだからさ?」
親子?そんな事あんたが一番思ってないことでしょ!?
「私、仕事中なので用が無いなら戻りますけど?」
「お茶でもって思ったけど、忙しいなら良いわ?お金貸してくれないかな?」
「どうして私が?」
「あの人がお金くれなくなったのよ!仕事も勝手に辞めちゃってさ!ほんとに困るのよね?」
あの人が仕事を辞めた?まだ退職する歳じゃ無いのに?
「だからって私があなたにお金を貸す筋合いじゃないと思いますけど?血も繋がってないし、籍ももう他人ですよね!?」
「なぁーんだ、離婚したの知ってるのか?」
諦めて帰るかと思ったが、この女はとんでもない事を言い出した。
「私とは他人になっても和也とは戸籍上は姉弟よ?だから、父親が面倒見れないなら、姉のあんたに和也の面倒みる義務があるってもんでしょ?」
はぁ!?どうして私に義務があるのよ!?
「まぁ和也を引き取れとは言わないわ?ただ和也が成人するまでせめて学費を出して欲しいの!もし、嫌なら隼翔君にお願いしようかしら?あなた桜小路家の皆さんに随分可愛がって貰ってるんでしょ?あなたの代わりに多少のお金出してくれると思うのよ?」
なっ…なんて人なの…
そして毎月、私の給料日になるとお金を取りに来るようになった。それも和也を給料日の1週間前によこしてまで…
「来週、何時もの所で渡すってあの女に言っときなさい!」
私はそう言ってタクシーに乗り込もうとした。
「あっ姉さん!今日…少しだけでも…借りれないかな?明日、合宿のお金を収めないといけなくて…」
あんた達親子は何処まで私を苦しめるの…
「運転手さん、少し待っててくれますか?すぐ戻りますから」
私は会社の側のコンビニでお金をおろして来て和也に一万円札を2枚渡した。
「これだけしか無いから!」
「ごめん…ちゃんと返すから」
先月もそんなこと言ってたけど!?本当に返す気あるんだか?
私はそのまま何も言わずタクシーに乗り込んだ。