病室の甘い悪魔
私は呼吸のたびにひゅうひゅういっている肺を心底恨んだ
ききたいことはいっぱいあるのに、喋ることがつらくてゆっくりしか喋れない
『ど、して....』
雲のない今夜、うすく月光が彼は口元を緩めたのを私の目に捉えさせた
私を安心させようとするような笑みだった
「ごめんね、ぼくは短命なんだよ。もうすっかり寒くなっちゃったし、もう死んじゃうなって思ったから。ありがとうって言っておきたくて」
『やだ、やだよ、しんじゃ、いや...!』
幼子のように首を左右にぶんぶん振っていると、突如として彼はその場に崩れ落ちた
固く冷たい床、きっと彼のきている寝間着では寒いはず
それにも関らず彼はまだ笑っていた
「一緒に居てくれてありがとう。君のそういう好奇心旺盛なところ、変わらないよね...。
よかった、最期に君に触れることが出来て。」
彼の手が私の頬を撫でる
その瞬間、私は違和感に気付いてしまった
『これ、は、なに....?』
明らかにヒトではない感触に思わず身じろいだ
くすぐった、い…?
私の言動に、彼は下唇をかみしめた
しばらくそうやってなにかに耐えているようだったが、やがて震える声で言った
「ごめん、騙してて。でも、僕もうしぬから、ゆるしてほしいなぁ...。」
『.....大丈夫だよ、許すから、ねぇ、だから、しなないで...!』
頬の感覚に、懇願の声色が勝った
私は、好奇心とかじゃなくて、純粋に、彼に生きていてほしい。
心の底から願った
でも、当然ながら彼は、よくならない。
私の言葉に心底安堵したように表情緩めた彼は、ゆっくりと言った
「感謝が、言葉じゃ言いきれないよ、もう...。こんな言葉じゃ全然たりない、けど...。ありがとう」
彼の腕から力が抜け、頬を撫でていた不思議な指が私から遠ざかる
思わず両手で顔を覆う
涙でぐしゃぐしゃの顔を見られたくない
でもすぐに思いなおし、彼に再び視線を向ける
しかし
彼は、いなかった
そこに残されていたのは