下町コインランドリー
ってか、そもそもこんな思いをしてまでニット着たいの?
平日は会社と家の往復で、休日は家にしかいないのに?
あぁ、私なこんな生活がしたくてこっちに出てきたんだっけ?
なんでそんなに都会に憧れてたんだろう
都会に出てきたって、別にいいことなんてなー………
「これもお嬢さんの?」
ぐるぐるぐるぐるマイナス思考の中、突然私に向けられた低い声
見ると、差し出されていたのは私の白いニットワンピースでした。
「そ、そうです……ありがとうございます………」
顔をみると、30歳くらいのぱっとしないおじさん。
痩せ型で、めがねで、無精髭で、髪はボサボサで、着ているのはスウェット
「俺そんなん着ないからよくわからんけど、洗濯苦手ならそーゆーのクリーニングとかのがいいんじゃない?」
声は低めで、少しだけハスキーで、心地いい
「あ、クリーニング!その手があったか!」
クリーニングの存在を思い出して、私は目を見開きます。
「あー、なんで早く気が付かなかったんだろう!さっき1枚ニット縮ませちゃって………」
「くくっ……」
話しているとへんな声が聞こえてきて、おじさんを見ると面白そうに笑っていました
「いやいや、失礼。久々に若い子と話すから楽しくてさ。気を悪くさせちゃってたらごめんね」
見かけによらず紳士なんだなと思いながら、私は頭をブンブンと横に振ります。
それを見るとおじさんはまた笑って、俺はもう終わったからいくねと言って、洗濯物が入った袋をブラブラさせて帰っていきました。
おじさんと話しているのはなんだか落ち着いて、出会ってたった数分だったけど、私にコインランドリー生活を楽しみにさせるには、充分でした。
また明日も会えるかな?
そう思いながら、私は歩いて数分のクリーニング屋さんに向かいました。