下町コインランドリー





「あいつとは大学の頃から付き合ってて、もうそろそろ結婚しようか、なんて勝手に考えてた。でも、あいつは違ってて………」





職場の先輩に付き合ってもらって婚約指輪を選んで帰った日




家に高村さんの元カノさんの姿はなくて、ただ1枚手紙が残されていたそうです。




『あなたとは、もう一緒にいられません。さようなら』





突然のことに高村さんはどうすることも出来なかったそうです。



昨日までは普通にあった幸せがすり抜けていく感覚




それに耐えられなくて、誰とも連絡をとらず、仕事もやめて、元カノさんに関するものは全て絶ったそうです。






「段々と、あいつのことを過去にできてきてると思ってた。そう思いたかった。でも、情けないことにたった1回の連絡で全てが崩れ落ちた。弱くなった。」




声が震えてる高村さんに気づかないふりをして、私はただ耳を傾ける。





「県外の実家に帰るから、きっともう偶然にも会えないだろうって、今までありがとうって、ごめんなさいって……………」




私は思いました。



高村さんは、ずっと元カノさんのことが好きだったんだと。



ずっとずっと、泣きたかったんだなと。寂しかったんだなと。






「飯も、掃除も、洗濯も、ずっとあいつと一緒だった。またあの日々が戻ってくるんじゃないかって、どこかで期待してたんだ。」





私が高村さんのことを考えて過ごしている時間を、きっと高村さんは元カノさんのことを考えて過ごしていた。




あれ、私ってそんなに高村さんのこと考えてたかな?





ううん。きっと、出会った日から、ずっと考えてた。






そうか、私高村さんが好きなんだ。







元カノさんを想い泣く高村さんの腕の中で、私は高村さんへの気持ちに気づきました。








< 8 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop