下町コインランドリー
このまま、弱っている高村さんに寄り添っていたら、彼は私を見てくれるでしょうか。
そんなずるいことを考えてから、なんだか満月に睨まれたような気がして、高村さんをとんっと、突き放しました。
「ばっっかじゃないの!!!!」
目を大きくして、涙を隠すことも拭うことも忘れた高村さんを、突き放しました。
「なに悲劇のヒロインぶってんのよ!可哀想なのは元カノさんの方じゃん!!なに自分だけ傷付いて立ち止まってんの!?傷付いたのはあんただけじゃないでしょ!!!!!!あんたにできることは、もうひとつしかないじゃん!!!!」
高村さんに、幸せになってほしいから。
こんなにも愛してる人と、離れさせちゃダメな気がするから。
「今からでも元カノさんを追いかけて、好きだって、愛してるよって、伝えるしかないじゃん!結婚しようって、そう言って手をとってくるしかないじゃん!!!断られても、しっかり吹っ切れるまで話してこなきゃ!理由も全部聞いてこなくちゃ!!!!
ここで10代のガキに甘えてる場合じゃないでしょ!!やることやって、もうできることなくなったら甘えに来い!おじさんのくせにそんなことも分かんないのか!!!!!」
大声でそう言い終わると、高村さんは一瞬間をおいて、走り出しました。
「ありがとう鈴ちゃん!!!いってくる!!!!」
あんなにもキリッと真剣な顔をした高村さんは初めて見ました。
でも、きっと今までのだらしない姿が偽物で、本当はしっかりした人なんだと思います。
「がんばって、高村さん………」
私はこぼれ落ちる涙に気がつかないふりをして、洗濯物を回収すると家に帰りました。
なんだか、いつもより暗く感じました。