ワケありオンナとワケあり男子の共同生活
昨日はあれから何を言おうかずっと考えていた。
でも、何を伝えたらいいのか結局分からないまま今ここにいる。
ヨリを戻したいわけじゃない、ただ今の気持ちをぶつけたい。でも、今更何を伝えたんだろう。
わたしを傷つけたから許さない、とか?こんなにボロボロなんだよ、とか?
なんか、違う気がする。しっくりくる言葉がどうしても思いつかない。
分からなくて頭がいっぱいになる。
「あゆ?」
聞き覚えのある声。視界の右側にある滑り台の方を見ると、男の人が近づいてきている。
「ずっとあゆ見ながらこっちに来たのに全然気づかないから声掛けちゃったよ」
前の職場で何度も顔を合わせた、アノ人──。
胸の鼓動が早くなる。トキメキとかじゃない、ちょっとした恐怖心に近い。
「タクヤ、さん」
名前を呼ぶのすら言葉が詰まる。上手く話せる自信がない。
とっさに口元を手で覆うとふんわりと桜の香りがした。あきくんがくれたハンドクリームの香り。
あきくん……。
少しあきくんを近くに感じて心が少し落ち着いた。あきくんはいつだってわたしに癒しをくれるんだ。