ワケありオンナとワケあり男子の共同生活
その瞬間だった。
ガシャッと鍵が開く音がした。玄関の方を見ると、ドアが開いた。
「ただいま」
少し元気のない、小さな声だった。でも、それは毎日聞いているあの声だった。
「あきくん、おかえり」
あきくんは靴を脱ぎ、靴を玄関の端に並べた。部屋に入ってきて、カーペットの上にあぐらをかいて座り込んだ。
なんだろう、あきくんから普段匂わないシャンプーの匂いがするような。やっぱり実家に帰っていたんだろうか。
あきくんはわたしの方を見た。いつもの笑顔とは違う、何か深刻そうな表情だ。いや、普通に真顔なだけかもしれない。ただ、いつもがすごい笑顔だから少し緊張する。
「あゆさん」
ハッキリとわたしの名前を呼んだ。一瞬、わたしが持ってきたコップを見てまたわたしを見た。
「今までありがとう」
え?今までありがとうってどういうこと?
何それ、なんかこれが最後みたいな言い方して。
「おれ、この家を出ようと思う」
全く予想していなかった言葉。
「え?なんで?」
何故彼はこんなことを言っているんだろう。考えるより先に口から言葉が出ていた。なんで?なんで?