ワケありオンナとワケあり男子の共同生活
関係が歪んだ夜
お互い無言で帰り道を歩いた。
あきくんも気まずいだろうし、わたしも何を話していいか分からなかった。
家に着き、お互い荷物を床に置いて深呼吸をした。あきくんもわたしも床に座る。
少しの沈黙。ガタンゴトンと電車が通り過ぎる音が小さく耳に届く。
──沈黙を破ったのはあきくんだった。
「あゆさん、もしかして新しく彼氏が出来たの?」
頭の後ろに手を置き、わざとらしく少し明るい声で聞いてきた。さっき駅の前で見た少し引きつった笑顔。
「彼氏じゃないよ」
とっさに出た言葉。事実、ヒデキさんはわたしの彼氏ではない。
引きつった笑顔も保てなかったのか、あきくんは視線を床に落とした。
「あゆさん、少し前に言ったよね。彼氏らしい彼氏はいないって」
少しだけ声のトーンが下がる。
そう、確かに言った。彼氏らしい彼氏はいない、と。
「彼氏じゃないけど、それに近い存在の人はいるってこと?」