rabbit vanira
「待って!綾菜ちゃん!」


私は綾菜ちゃんの腕を掴む。


「…何。」


綾菜ちゃんは下を向いて目を合わせてくれ


ない。


「違うなら、言って欲しいんだけど…綾菜ち


ゃん、時也くんが好きだよね?」


「!」


綾菜ちゃんは、バっと顔を上げる。


顔が真っ赤…


「綾菜、ちゃん?」


「あ、あなたにはわからない!あなたは可愛


いし、頭もいいみたいだから、きっと恵ま


れた人生を送ってきたんでしょ?」


「…全然。私、恵まれてなんかないよ。」


「え…?」


「聞いてくれる?私の話。」


「う、ん…」


私たちは、ベンチに腰掛ける。


「私ね、恋人がいるの。結婚を約束した。」


「え…大学生で、婚約者…?」


「うん。パティシエなんだけどね。」


「そうなんだ…」


「私、両親もお兄ちゃんもいないの。」


「!」


「両親は、小さい頃に。お兄ちゃんは…交通


事故にあって、その後自殺したの。悲しく


って、ずっと泣いて、自殺未遂を繰り返し


て…お兄ちゃんはパティシエ目指してたか


ら、いつもお菓子作りしてたから、甘い香


りがして…それで甘いものがダメになった。


だから、ずっと塞ぎ込んでた。でも、ある


人が救ってくれたの。その後もいろいろあ


ってね…殺人未遂にあったり、別れたことも


あったよ。」


「…結構…壮絶な人生なのね。」


「アハハ!そうだね。でも、何かある度にそ


の人に会いたいって思っちゃうんだ…って、


話してたら、会いたくなっちゃった。」


「会いに、行けないの…?」


「うん。今、パリに修行しに行ってる。」


「そう、なんだ…」
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