rabbit vanira
私は素直に笑えなかった。


むしろ、お兄ちゃんに合わせる顔がなかっ


た。


そんなある日。


その知らせは突然来た。


「羽咲ちゃんっ!」



「どうしたの?おばあちゃん。」


「要が…自殺した…」


「え…」


耳を疑った。

カナメガジサツシタ?


目の前が真っ暗になる。


すぐに病院に向かった。


通されたのは、病室ではなく、霊安室。


「要っ!」


おばあちゃんはお兄ちゃんに駆け寄る。


そして泣いてすがる。


私はただ呆然と立ち尽くしていた。


嘘だ。これは何かの悪い夢だ。


きっとそう。車にはねられても、死ななか


ったお兄ちゃんだ。


きっと違う。


そう思っても現実は変わらなかった。


「私たちが目を離した時に、病院の窓から…


こちら、遺書です。申し訳ないです…」


そこにはこう書いてあった。


『羽咲、おばあちゃんへ


突然、このような形で別れを告げてしま


い、申し訳ないです。でも、この自殺は誰


のせいでもありません。ただ、僕の心が弱


かったのです。生きることに疲れました。


この18年間。楽しかったです。ありがと


う。おばあちゃん。


そして羽咲。羽咲は笑顔が一番です。


いつでも笑っていてください。


吾妻 要』


私はお兄ちゃんの遺体に抱きつく。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!1人にしない


で!嫌だ!また1人にしないで…起きて!い


や、いや…いやぁぁぁぁぁっ!」


お兄ちゃんの冷え切った体からは甘い香り


しかしない。


もうあの温もりはない。


私がお兄ちゃんの命を奪った。


あの時、入試に行かなければ。


そもそも、お兄ちゃんと同じ学校を選ばな


ければ。


お兄ちゃんは、死なずに済んだかもしれな


い。


むしろ、私が死ねば。


お兄ちゃんは生きていたかもしれない。


どちらにせよ。


私がお兄ちゃんの夢も、


未来も


命も。


私が全て奪ったんだ────────。
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