隣の部屋にフランス人
*
分かっていたことだけど、
帰りの電車はとても混んでいた。
これも分かっていたことだけど、
座れないし、人に押しつぶされそうになる。
『え次はーホワイト動物園前ーホワイト動物園前ー』
絶対人たくさん乗ってくる駅じゃん!
ガシャン…
電車の扉が開くと、人の塊が電車に吸い込まれてきた。
「う、わ」
私は人の波に押され、持つ場所を失った。
あ、あの人私が持ってたとこ取ってるじゃん。
悔しい!手すり争奪戦に敗北。
って、私は子供か。
「リリー、大丈夫?」
そう言って王子は左腕を私の背中に回すと
そのまま自分の体に引き寄せた。
「俺がリリー持っとく」
スー…ハー…
はい、深呼吸。
まず落ち着こう…この状況に落ち着こう。
王子に半分抱きしめられている様だけどね、
これは、私が掴むところがなくて危ないから
王子に支えてもらってるだけなんだ。
背中半分がね、王子の胸にぴったりくっ付いてるんだけど
何ともない…何ともない…
でも私、絶対顔赤い…