君が生きたこの世界で
「落ち着いた?」

静かな嗚咽が止んだところで、美香は愛唯羽から腕をほどいた。

『ん、ありがと…』

昨日から泣き続けた愛唯羽の目は真っ赤ですこし腫れていた。

美香は愛唯羽のベットに広がるアルバムを見た。

「わ、懐かしい」

腕を伸ばし、アルバムを手に取る。
美香が撮った写真が何枚も貼られていた。

「ねぇ、愛唯羽。
これ見て」

美香が愛唯羽に見せたのは髪がボサボサになった愛唯羽の頭を整える陽太の写真。

「桜庭くんさ、愛唯羽との写真いつも笑ってるね
愛唯羽のこと話すだけでニヤニヤしてたんだよ
だから、っていうわけじゃないけどさ
桜庭くん、悲しむんじゃないかな?
愛唯羽が泣いてるのは。
きっと桜庭くんが見たいのは愛唯羽の涙じゃなくて愛唯羽の笑顔だよ」

「だから、笑って」と美香は笑った。
確かにそうだ。
愛唯羽と一緒に写真に写っている陽太はいつも笑っている。
愛唯羽は陽太の笑顔が好きだ。
だから陽太の涙はなるべく見たくない。
陽太も、同じ?

『私ね、美香と同じなの。
まだ陽太がいないの理解出来ない。
でもね、昨日陽太に会いに行ったの。
陽太のお母さんとも話してきたよ。
陽太が、寝てたの。
早く起きてって、また笑ってって何度も思った。
きっとすぐに起きて、嘘だよって言ってくれるって。
またらいつもの同じように笑い合えるって。
でも、もういないんだね
陽太、起きないんだね
ごめんねって、いって、ない、の…』

止まったはずの涙がまた溢れ出す。
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