君が生きたこの世界で
涙を流したら、陽太がいないことが本当になる気がした。
実際、もういないのだがそれは愛唯羽の心の問題だった。
涙を流したら、今までの陽太との思い出が全て流れてしまう気がした。
忘れたくないことを忘れてしまう気がした。

それでも、美香が来て愛唯羽が涙を我慢することは出来なかった。
愛唯羽はそこまで強くなかった。

『陽太とね、お別れする時はもう泣かない。
陽太に泪は似合わないもん。
泣いてたら、陽太に怒られちゃう。
でもね、美香。
今だけは、今だけは泣いても、いいかなぁッ?』

美香がした小さな声の返事は愛唯羽の泣き声にかき消された。







それから、美香は家に帰ることなく愛唯羽と共に過ごした。

「おはよ」

『おはよ…』

思った以上に愛唯羽の心は落ち着いていた。

今日は陽太の葬儀の日。
6月22日だ。
お別れの時。

「じゃー、私1回帰るね」

『うん、来てくれてありがと』

美香はもう1度愛唯羽を抱きしめ、愛唯羽の家を後にした。
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