君が生きたこの世界で
美香が愛唯羽の家に来た日、愛唯羽は陽太に涙は似合わないから、笑って送ると決めた。
それは、孝大にも伝え孝大も納得した。

陽太が火葬場の中に入る。
本当に本当に、最後の時間。

ゆっくりとわホールのスタッフが頭を下げた。

「閉まるな」

孝大は手のひらをぎゅっと握り、涙を耐えた。
愛唯羽も涙を浮かべながらも流すことはない。

ゆっくりと、扉が閉まる。
その時、愛唯羽の頭には色んな顔の陽太が浮かんだ。

照れた顔。嫉妬してる顔。
少し怒った顔。心配してる顔。
喜ぶ顔。困った顔。

そして、
愛唯羽の大好きだった、笑った顔。

ー「あゆ!」ー

ー「あゆは俺がいないとだめだもんな?」ー

ー「あゆが笑うから、俺も笑うんだよ」ー

今までの陽太が愛唯羽の頭をいっぱいにする。
その時、愛唯羽の涙が零れた。

『ねぇ、青野くん
私さ、やっぱり陽太がいないの寂しい。
辛いよ。
でも、陽太に涙は似合わないから。
笑ってばいばいしようって、そう決めたの。』

愛唯羽の言葉を孝大はただ、隣で聞く。
うんともすんとも言わず、ただ聞いていた。

『でも、ね。無理だよ
笑ってばいばいなんて出来ないよ
だって、大好きなんだよ?
こんなに好きなのに、なんでさよならなの?
なんで陽太だったの?
なんで、なんでッ?
喧嘩なんて、しなきゃよかったのかなぁ?』

なんで、と考えればその思考は止まることは無い。
誰も予想などしてなかったから。
陽太と愛唯羽が喧嘩することも、
陽太が死ぬことも。
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