君が生きたこの世界で
「陽太がね、花束を持ってたんだって。」

それは、先程ファミレスにいた時に孝大から聞いたこと。
だけど孝大は、なんの花かは聞いていないと言っていた。
けれど、百合は知っているんだろう。
陽太がなんの花を持っていたのか。

「サンザシの花のね、花束だったの。
愛唯羽ちゃん、なんでか分かる?」

『サンザシ…?』

なぜ、陽太がサンザシの花束を持っていたことはおろか、サンザシという花があることさえ今の今まで知らなかった。

『わかんないです…』

「ふふ、私もなの。」

百合は微笑みながら愛唯羽の近くに温かいお茶を置いた。
愛唯羽はぺこりと頭を下げる。

「きっと、なにか意味があるのよね。
でもね、陽太はきっとその意味は私にじゃなくて愛唯羽ちゃんに知ってほしかったと思うの。」

愛唯羽の見つめる百合の顔は、悲しげで寂しげで。
それでもどこか前を向いていた。
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