再会は、健康診断で。
『え? 今、俺のこと好きって言った?』
平根に聞き返されて、その言葉を口にした自分が急に恥ずかしくなってくる。
「……言った」
赤くなりながらそれを認めると、電話からガチャガチャと耳障りな雑音が聞こえて、私は少し携帯を耳から離す。
「平根?」
『あ、ごめ。びっくりしすぎて携帯落とした。え、本当に? かえ、俺のこと好き?』
「……うん。す、き」
そう口にしてかああっとひとりで赤くなる。すごい恥ずかしい。これを面と向かって伝えるのは、今の私には厳しい気がする。
『かえ、今どこにいるの? 会いたいんだけど』
そうだよね、そうなるよね。でも、それは本気で厳しい。今、まともに平根の顔を見れる自信がない。
「む、無理。明日早いし……じゃあね」
『あ、ちょっ……かえっ』
平根の言葉を遮って、電話を切ってからはあっとため息をつく。
言っちゃった。黒崎さんが恋のスパイスとか言ってたけどスパイスどころか劇薬だった。
だって、がんばらないと黒崎さんのものにされちゃうし。たしかに思い描いていた理想の人とは違うけれど、私が好きなのは平根だ。
私のことを、真っ直ぐ一途に好きでいてくれる平根が好きだ。きっとあんなふうに私を想ってくれる人は、平根以外にいないと思う。
恋とは恐ろしいものだ。好きって自覚したら、すごい勢いで気持ちが育ってるのを感じる。
だけどそんな気持ちになるのが初めてな私は、その気持ちをもて余してしまう。
日々育つその気持ちを抱えたまま、私は思いがけず長い時間平根と会えない日々を過ごすことになるのだった。