all Reset 【完全版】
第五章 運命の悪戯
二人の秘密
休みに入ってからはバイトに費やす時間が多くなっていた。
バイトは渋谷にあるダイニングバーでしている。
マスコミ関係の業界人にはよく知られている店らしく、ドラマなんかの撮影でもたびたび使われる、そんな店だ。
客層はほとんどが二十代後半から三十代で、店内で暴れるような客は滅多に来ない。
静かで、落ち着いた空間。
チェーンの居酒屋みたいな騒がしい場所じゃないのが気に入り、何とか長続きしてる。
バイトの日は朝まで仕事をして、始発で帰って昼過ぎまで寝る。
最近はそんな毎日を送っていた。
昼、十二時。
この時間にもなれば部屋の気温が一気に上昇し、暑さで勝手に目が覚める。
エアコンをつけようと手を伸ばしてみたものの、リモコンらしいものに行き着かない。
仕方なく身体を起こそうとしたとき、突然、音の無い部屋にスマホが鳴り響いた。
『秀くん? 亜希だよ』
電話の相手はなんとビックリ、亜希。
半分寝呆けていた頭がパッと目覚める。
「……どした?」
身体を起こしたついでに煙草をくわえた。
『秀くん、遊びに来てよ』
相変わらず楽しそうな声の亜希。
小学生が友達を遊びに誘うようなノリで唐突にそう言った。
「え、今から?」
『うん、だめ?』
「今からかぁ……」
亜希から電話が掛かってくるなんて、いつぶりだろう?
そんなことをふと考える。
そんな時……。
『もしもし、秀くん?』
声の主が前触れなく変わった。
おばさんだ。
「あ、はい。こんにちは」
慌てて挨拶をした拍子に、くわえてた煙草がぽろっと口から落っこちた。