all Reset 【完全版】



ギラギラした太陽が照りつけ、蝉が今しかないと言わんばかりの勢いで鳴いている。


涼しい部屋の中で、亜希は真剣な目をして鉛筆を握っていた。


おばさんがやったのか、教えたのか、今日の亜希は髪を巻いて軽く化粧もしている。


見慣れた昔の亜希に近かった。


最近は家にいれば字の練習をしてるらしい。


広げられた大学ノートには、たくさんのひらがなやカタカナ、漢字が書いてある。


手は憶えているのか、字体は記憶を無くす前のものにそっくりだった。



「字、覚えた?」


俺は亜希の隣に座り、ノートを覗き込む。


「うん! いっぱい書けるよ」


亜希は俺を見上げ、得意気にそう答えた。



「覚えるのが早いのよ。やっぱり、どこかで憶えてるものなのかしら?」



キッチンから顔を覗かせ、おばさんはそう言う。



「ねぇ、お母さん。庭に出てもいい?」


ノートを閉じて鉛筆を丁寧に置いた亜希は、おばさんに向かってそう訊いた。


「いいわよ」


おばさんの返事を聞くと、亜希はいきなり俺の腕を引っ張りながら立ち上がる。


「大きいひまわりが咲いてるの! 秀くんにも見せてあげる」


「ひまわり?」


「そう! 亜希より大きいのがあるんだ。ほら、早く早く」



亜希の突拍子のなさにはここ最近よく驚かされる。


急かす亜希に負け、俺は言われるがままに腰を上げた。

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