all Reset 【完全版】
帰り際、亜希は人懐こく「耳かして」と俺の肩を叩いてきた。
内緒話をするように両手を口に添え、俺の耳元に近付いてくる。
何だ何だ?
深く考えないで耳を貸した。
「……秀くん、コレ……何?」
……え?
近付いた亜希は、俺の耳に掛かる髪を持ち上げて首を大きく傾げる。
どうやら内緒話は中断されたようだった。
亜希が気になったものは、俺の耳についていたピアスだったらしい。
「……コレ? これはー、ピアス」
「…ぴあす?」
「そう。耳に穴開けて、こうやってつけるやつ」
「えっ、穴?!」
驚いた顔で亜希が身を引く。
急に心配そうな顔になった亜希を見て、俺はおかしくて笑いそうになった。
「うん、穴」
「痛く……ないの?」
「大丈夫だよ。一回開けちゃえば」
「そうなの?」
「そうだよ。良平も開いてるし、亜希だって両耳に開いてるじゃん」
「えっ! ……亜希も、穴開いてるの?!」
そう言われ、亜希は慌てて耳たぶを触り始めた。
左に二つ、右に一つ。
亜希の耳には三つのピアスホールがある。
高校二年の始め頃。
亜希にせがまれ、仕方なく俺が開けたピアスホール。
一個開けるたびに騒いで、「痛い痛い」言ってたのを憶えている。
それからはたくさんの種類のピアスを集め、いつも欠かさず付けていた気がする。
あの事故に遭ってから、亜希はピアスをつけなくなった。
「亜希……怖くてできない」