all Reset 【完全版】
新たな試み
「じゃあ、後期から?」
「そのつもりだって聞いた。授業には出れないだろうけどな?」
亜希が大学に通い始めるという話をしながら、俺は秀と恵比寿から代官山への道を歩いていた。
趣味が似ているらしく、洋服を買いに行く店は同じ場所が多い。
今日もいつもと代わり映えないショップを巡っていた。
秀がおばさんにその話を聞いたのは、この間、亜希の家に行ったときだという。
電話をもらったけど、俺が断りを入れた日だ。
俺はその日、高校のバスケ部に顔を出す先約があった。
試合が近いという事情で、顧問にどうしても来いと言われていたのだ。
『夏休みが終わったら、亜希を大学に通わせ始めてもいいかと思って』
おばさんは秀にそんなことを言ったらしい。
病院にも行き、菅野先生とも相談した結果。
もちろん、授業に出る知識も理解力も亜希にはまだない。
大学に行っても、雰囲気を楽しむくらいしかできないと思う。
でも、そういう小さな積み重ねが記憶を呼び戻すリハビリみたいなもんなのかもしれない。
先生はそういう意味で許可を出したんだと思う。
その話を聞いて、俺は正直不安になった。
それって、大丈夫なわけ?
即そう思った。
秀もこの話になってからそんな心配を口にしている。
社交的な亜希のことだ。
大学に通い出せば、少なからず声を掛けてくる人間がいるはずだと思える。