all Reset 【完全版】
去り際の胸騒ぎ
秋を迎える夏の終わりは、暑さも和らぎ少しだけ名残惜しい。
遊びすぎた学生はこんがりしてて、この夏を楽しみました、と言わんばかりの姿をしている。
亜希を連れての後期の授業が始まって一週間。
記憶を失ってから初めての大学は、亜希にとって新鮮なものに感じられてるようだ。
一日、二日は物珍しそうに周りを観察する姿が目立ってたけど、もうそれも少なくなった。
幸い、誰かに声を掛けられることもまだ無い。
今だって、行き交う学生に視線を送りつつも目立つ行動も取らず大人しくしている。
その横で、落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回している良平。
コイツの方がよっぽど目立つ……。
「おい」
俺の声に良平は警戒しているような目をそのまま向ける。
「何?」
「何じゃねぇよ、目立つから」
「何が」
「お前の行動が。挙動不審気味だし」
「しょうがねぇだろ。気ぃ張ってんだよ、これでも」
良平は不機嫌そうに言った。
今日は、恐れていた亜希が初めて独りになる日。
良平と俺の授業が合致して、亜希は一時間半を独りで過ごす羽目になる。
なるべく避けたかったけど、そうも上手くいかない。
亜希から目を離すのは不安だし、落ち着いて授業を受けられそうにないなんて思ってる。
今日は亜希には学校を休んでもらって……なんて提案も出たけど、おばさんが急用があり、亜希のことをよろしくと俺らに頼んできた。
信用されているからこそ頼まれたわけで、その頼みを断ることはできなかった。
向かった大学内の図書館は予想通りがらがらだった。