all Reset 【完全版】
「冗談じゃねぇ……」
電話を切った俺は、スダって奴に向けるような一言を吐き、目の前のチラシを剥ぎ取っていた。
階段を飛ぶように駆け下り、行き交う学生にぶつかりそうになりながら必死に走る。
ここまで全力で走ることなんてそう滅多にない。
でも、走る速さよりも気持ちの方が先に行ってるような感覚があった。
心配してたことより、事態は更に上手だった。
もし亜希の記憶のことを人に言われたら、どう誤魔化そうか。
さっきまでそんなことを考えていた。
でも今は、そんな心配なんて大したことじゃなかったと思える。
スダって男は……
亜希の記憶喪失まがいの噂を聞いてたのか?
前に付き合ってたとかっていうその男に、俺は憤りを感じずにはいられなかった。
今の亜希は……前の亜希じゃない。
やだったらやだとか、はっきり言えない。
騙されてても、きっと素直に信じる。
今頃、子どもみたいに泣いてるかもしれない。
もっと、ちゃんと亜希にどこにも行くなと言えばよかった。
誰に何を言われても、付いてくなって。
まさか、こんなことになるなんて……。
ぜってぇ……許さねぇ。
後先なんか何も考えず、俺は全力疾走で大学を飛び出していった。