all Reset 【完全版】
負け犬の遠吠え
長いままの煙草が何本も灰皿の中に突き刺さっている。
ハリネズミの背中みたいになったそれを、俺は黙って眺めていた。
さっきから火を付けては消しの繰り返し。
この数時間、全く落ち着くことができなかった。
良平からのあの電話で、俺は始まりそうな講義を放棄した。
とりあえず図書館に行ってみると、言われたように亜希のバッグがそのまま残っていた。
亜希に何かがあった……。
須田が……関与してる?
良平からの電話で、あの時点で俺が得られる情報は少なすぎた。
ただ、さっきの胸騒ぎは、ただの“そんな気がする”っていう感覚じゃなかったのかもしれないと思った。
予知みたいなものだったんだ……と。
それがわかると、後悔と焦燥感が俺を追い詰めた。
独りになんてするんじゃなかった。
何かが起こってからそう気付く自分は、本物の馬鹿だと思うしかなかった。
良平にも何度も電話をかけた。
多分、着歴が全部埋まるくらいだったと思う。
連絡もつかず闇雲に二人を捜したけど、やっとかかってきた良平の電話で俺は事の事情を把握した。
亜希を送って俺の部屋に来た良平は、さっきからずっと複雑な顔をして壁にぐったりと寄り掛かっている。
おばさんには、
『亜希の友達が久しぶりに会ったからって、勝手に遊びに連れてっちゃって』
とか、当たり障りなく説明したらしい。
おばさんは俺らを信用して亜希を任せてる。
だから、間違っても男に連れて行かれたなんて言えない。