all Reset 【完全版】
「何? 付き合うなとか、言えばよかったわけ?」
そう言うと、良平は俺に向けていた目を何もない空間に泳がせる。
「……そうだよ、言えよ」
つっけんどんにそう言った。
よく言う……
自分だって言えないくせに……。
「……じゃあ、お前は言えるわけ? 俺の立場だったら」
その一言で、何とも言えない微妙な沈黙が流れ始めた。
俺も付け足す言葉が出てこないし、良平も言い返す言葉が見つからない様子。
この類の亜希話になると、必ずと言っていいほど一度は沈黙が訪れる。
どっちも自分の気持ちを隠しながら、互いを探る。
同じ女を好きなくせにつるんでる俺らは、よくよく考えれば妙な関係なのかもしれない。
年月をかけて築き上げた三人の関係は、俺にとって何にも代えられないものだ。
二人は、絶対必要な存在。
でも、違う形で亜希に出逢っていれば……なんて思うこともある。
そうすれば隠したりする必要はなかった。
良平がいる。
良平は亜希を想ってる。
それは間違いなく大きい。
亜希への気持ちを隠し、遠慮し、気が付くと全然関係ない男に持ってかれてる。
挙げ句の果てには、それについて二人で語ったりしてる。
遠巻きに見れば、馬鹿な男たちだ。
結局、俺ら二人は“負け犬”みたいなもんだ。
「とりあえずさ、亜希も二度と奴に付いてくことはないだろ」
静まり返った部屋の中、良平が静かに沈黙を破る。
「まぁ…次何かあったら……そのときはぶっ飛ばす予定だけど」
指の関節をポキポキ鳴らしながらそう付け足した。
「でも……やっぱり噂になってたんだな? 亜希のこと」
俺が話をすり替えると、良平は返事も無しにまた天井を見上げた。