all Reset 【完全版】
流行りの王子様
「はっ? 今から?」
空からは夏の終わりを告げるような冷たい雨が降っていた。
『亜希ちゃんが今から遊びに来るわよ?』
母親にそう言われたとき、俺はバイトから帰った風呂上がりの姿だった。
雨が降る中、朝っぱらから引っ越し屋のバイトをしたおかげで全身びしょ濡れ。
寝不足と疲れで今から寝ようと思ってた矢先だった。
が……。
亜希のおばさんが亜希を連れて今からうちに来るらしい。
昔はそんなこともよくあった。
って言っても、かなり昔。
幼稚園とか小学校とか、そのくらい前の話。
母親に連れられてお互いの家に遊びに行く。
親同士の仲が良かったから、亜希と俺は必要以上に仲良くなったのかもしれない。
今となれば親を介すことなく子ども同士は勝手に会うし、親同士も勝手に会ってるわけだ。
「あら、来たみたい」
リビングに鳴り響いたインターホンにいそいそ立ち上がると、
「そんな格好してないで、早く着替えなさいよ」
と、母親は玄関に向かって行った。
「もっと早く言えよ……」
俺は独り愚痴をこぼし、タオルで頭をふきながらリビングを出ていった。