all Reset 【完全版】
自分の中のうるさい分身を振り払う。
わかってる……。
そんなこと……
全部、わかってる……。
亜希は、秀が好きだった。
秀も亜希が好きで、俺も亜希が好きだった。
どうしようもない三人。
変化しない関係。
それでよかった。
いいと思ってた……。
でも……
もう駄目だ……。
足の間に収まってる亜希を両足で包囲して、俺はそのまま腕を伸ばした。
引き寄せると、揺れた髪から甘い香りが漂った。
「ごめん……好きだよ、亜希のこと」
とうとう言ってしまった……。
やっぱり、今の亜希の気持ちを流すことなんて俺にはできない。
記憶が無い。
だから、亜希は俺を好きだって勘違いしてる。
それは百も承知の話。
記憶が無くなった亜希に付け込んで、自分の気持ちを伝える俺は卑怯かもしれない。
でも口に出して白状すると、ふっと何かから解放されたみたいに気持ちが軽くなった。
「よかった……」
腕の中で呟くようにそう言った亜希は、背中に回した腕に優しく力を込めた。
首筋にかかる呼気を感じながら、俺はしばらく亜希を離さなかった。
小さな頭を抱いたまま、瞬きも忘れてじっとしていた。
たまにクスクスと亜希が笑うたび、この状態が妙に恥ずかしくなった。
「良平くん……ずっと、亜希と一緒にいてね?」
そんなことを言った亜希が可愛くて、物凄く愛おしくて、俺は返事の代わりに抱き締める腕に力を込めた。
絶対に叶わない想い。
好きだって伝えることも、亜希を抱き締めることも、絶対できないと思ってた。
一生分の幸せを使い果たしたかもしれない。
そんなことを思った。