all Reset 【完全版】



校舎に向かって校庭を突っ切って歩く。


亜希はアスファルトとは違う地面におぼつかない足取りをしてて、俺は歩幅を合わせてゆっくり手を引いた。


外壁が罅割れた校舎。

今では信じられないくらい低い手洗い場。


今日来るまで忘れてた遠い昔が蘇る。


ここに毎日通って、一日の半分を過ごした六年間。


今見ると小さなものも、あの頃は大きく感じていたと思うと面白い。



校舎のすぐそばまで近付くと、亜希は窓に張り付いて中を覗き始めた。


廊下に掲示されている図工の作品や、“保健ニュース”と書かれたポスターが目に入る。


その一つ一つを、亜希は興味深そうに見て回る。



亜希はこの頃のことなんて何一つ憶えてないだろうけど、俺だって明確な記憶なんて無い。


断片的で、印象深いことしか頭に浮かばなかった。


どんどん歩いて行く亜希が、いつの間にか逆に俺の手を引いていた。



校舎から体育館に続く渡り廊下の前に出ると、そこに沿って咲いているコスモスの花に目が留まった。


ピンクや白の花を咲かせ、か細い体で美しさを守っている。



「……ここ、嫌」


< 195 / 419 >

この作品をシェア

pagetop