all Reset 【完全版】
ポツリ。
遠い目をしながら亜希はそう言った。
俺から手を離しコスモスに近付くと、小さな花を下から見上げるようにしゃがみ込んだ。
「……何か、思い出す?」
そう訊くと、亜希はまた渡り廊下に目を向けた。
「亜希……ここでみんなにいじめられた」
「え? ……いじめ、られた?」
あぁ……
確かにそんなこともあったかもしれない。
記憶の片隅から突然頭に蘇った過去。
薄らと覚えている過去にトリップする。
確かに亜希はあの日、ここでいじめられていた。
トイレ掃除に使う雑巾を投げつけられた亜希は、からかうようにクラスの男たちに文句を言われていた。
揃った声で、
『男、おとこー!』
って、罵られていた。
そこには便乗した女子もいて、それを見て一緒になって笑っていた。
「お前、女じゃないだろ?! おとこおとこ~!」
「ホントはきんたまついてんだろー?」
言われる文句に亜希は精一杯泣いて、その罵声に抵抗していた。
誰も、亜希の肩を持つ奴はいなかった。
「亜希は男じゃねぇよ!」
あのときその現場に偶然遭遇した俺は、亜希をかばってそんなことを言った。
そのことが思い出された。