all Reset 【完全版】
「 何だそりゃ。初耳だけど」
「……秘密がいいとか、亜希が言い出してさ。だから言わなかっただけ」
そう言うと、良平は無反応のままノートを手に取った。
でも中を開くわけでもなく、すぐにテーブルの上に戻す。
盗み見た良平は、何を考えてるかわからない顔をしていた。
「字の勉強にって、付き合ってただけだから」
そう言ってみてすぐ、“仕方なくやってました”風な言い方をした自分にイラっときた。
内心落ち着かない俺の心境に気付いてるのか、良平はカウンターの向こうを黙ったまま見つめていた。
「次はお前が付き合ってやれよ」
「は? 何で」
「いや、何となく……」
間が持たなくなった俺はスツールから立ち上がり、すぐそばにあるハウスダーツの前に立った。
「俺さ、これから忙しくなるから」
「忙しく? ……何で」
良平が振り向いてこっちを見てるのが目の端に映る。
でも、俺は顔も向けずに話し続けた。
「バイト増やすし、できれば留学したいと思ってるから」
「はっ?!」
「……」
「えっ、何それ……留学? それも初耳だけど」
「短期でだけどな」
気が付けば勢いでそんなことを言ってた。
事実バイトは増やそうと思ってたし、留学だって興味がある。
でも思ってるだけで、まだどっちも具体化されてるわけじゃない。
そうしたい。
ただそう思ってるだけの段階だった。