all Reset 【完全版】



でも、亜希が記憶を失わなければ、きっとこんなことは思わなかった。


忙しい自分になりたい。


亜希とも良平とも、今は少し距離がほしい。


二人が遠くなったんじゃない。



俺は、自分から離れようとしてる。



今になって、良平の気持ちがわかる気がする。


いや……俺なんかよりも何倍も、こんな気持ちが強かったに違いない。



亜希とずっと一緒に過ごしてきて、ずっと亜希が好きだった良平。


その亜希は、突然現れた奴を好きになった。


それを知って、黙っていた。



その良平の気持ちを感じれば、相当なもんだ。



結局は余裕をかまして、自惚れてただけ。


良平の言った通りだった。



その結果がこれだ。


自分が間抜けすぎる。




『亜希は俺の』


そんな証明なんてどこにもない。


こうなる前に、好きだという気持ちを伝えて通じ合っていれば、亜希が全てを忘れても堂々とそう言えた。



何を、勿体ぶってたんだろう……。




“俺は亜希が好き”


その一言が、俺には言えなかった。




良平みたいに、俺はなれない。


『亜希はお前が好きだよ』


そう言った、良平のようには……。





何かが少しずつ狂いだした。


その狂った歯車がスピードを増す前に、そこから抜け出そう。


俺は、そう勝手に思い始めていた。



余裕をかまして、負けそうになったら逃げる。



俺はただの卑怯者だ。


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