all Reset 【完全版】
近づくもの、遠ざかるもの
コイツ……何訳わかんないこと言い出してんだ?
ダーツの矢を片手に目の前に立つ秀を、俺は黙ったまま凝視していた。
いきなり電話がきたと思ったら、バイト先に呼び出しをくらった。
白シャツに黒いネクタイを締めた黒のパンツ姿。
他のウエイターと同じ格好なのに、何かやたらと様になってて、俺は気持ち悪がられるくらいジロジロ秀を見てしまった。
俺は何となく、自分が置かれてる今の状況に、秀と合わす顔がない気分だった。
秀は知らないだろう。
別に、これといって亜希との関係が変わったわけじゃない。
ただの幼なじみから少し、距離が縮まったくらい。
それだって、亜希が記憶を失ってるからだ。
それでも、秀には何だか後ろめたい気がしてた。
でもその反面、何とも言えない勝ち誇った気分も微かにあった。
亜希は、ずっと秀が好きだった。
記憶を失ってなければ、きっと今でも秀を想っていただろう。
俺に入り込む隙間なんて無い。
そう思って諦めていた。
それが、思いも寄らない展開になってしまった。