all Reset 【完全版】
駅に近付くと、行き交う人間が少しずつ増えてくる。
傘を持ってない人達は、冷たい雨に濡れないようにみんな小走りになっていた。
駅が見えてくると、赤色の信号に足を止められた。
時間に追われているときならこの足止めにイライラして信号無視とかしちゃうだろうけど、今日の俺には心のゆとりがあるらしい。
立ち止まって、ちゃんと信号待ちをする。
賑やかに光ってる街をぼんやり見ていると、すぐに信号の色が青く変わった。
さぁ、行こう。
そう思って一歩足を踏み出したときだった。
左前に立っている人の傘が地面へと沈んでいく。
「ママ! ママぁ!」
その横に立っている黄色い傘を差した小さな女の子が、必死になって声を上げだした。
変わった信号に、周囲の人々は足早に立ち去っていく。
目の前で突然起こった事態に、俺は無意識に足を止めていた。
「……大丈夫ですか?」
座り込んだ女の人の前に屈み、一体何事かと思いながら恐る恐る声を掛ける。
「ぉ、お……ぉ腹、が……」
その人は目も開けてられないくらい苦しそうな表情をしていた。
えっ……
嘘……だろ?
大事そうに抱えたお腹は、明らかに大きく膨らんでいた。
「お兄ちゃんっ! ママがぁ!」
女の子は傘を放り出して、母親に寄り添いながら今にも泣きそうになっている。
「えっ、もしかして……産まれそうなんですか?!」
やっと開いた目は、返事をするような訴える眼差しをして俺を見ていた。
『だったら、寝坊の言い訳にそんな冗談言わないことだね』
そう言って呆れ顔になった、昔の亜希を思い出した。